After Understanding

2026年9月12日(土)– 10月17日(土)

KOTARO NUKAGA(天王洲)

KOTARO NUKAGA(天王洲)では、2026年9月12日()から10月17日(まで、ライゾマティクスによる個展「After Understanding」を開催します。

本展の中心となるのは、回転する金属の円盤をダイヤモンドの針で削りながら、一本の線を刻み続ける極座標プロッターマシンです。*1 その線のもとになるのは、インドの数学者ラマヌジャン(1887–1920)の研究に関連する数式群と、それらをもとにライゾマティクスが構成した実験式です。これらの式から得られた数値の分布は、場所ごとの線の間隔に変換され、設定された速度条件に従って金属円盤に刻まれます。結果が、その意味や説明に先立って現れるとき、人間はそこにどのような意味を与え、何に価値を見いだすのか。本展は、その時間的な隔たりを機械と金属の運動のうちに生じさせます。

円盤が回転している。その表面に、ダイヤモンドの針が一本の線を刻み続ける。一度刻まれた溝は消えず、デジタル画像のように履歴を遡って修正することもできない。金属には、​​針が通った軌跡が傷として残される。 

プロッターマシンは、​​複素平面上で数式を計算して得られた関係を、金属表面の一本の連続線へ変換する。*2 数式から読み取られた強度、位相、変化率のうち、選ばれた特徴が、外周から内周へ進む線の間隔を変化させる。線がどこをどの順序で通るかはあらかじめ計算され、円盤の回転と針の移動による連続した運動へ変換される。線が刻まれる順序と、機械が動いた時間は、消すことのできない痕跡として金属に残されていく。*3 

本作で参照される数式群の一つには、特徴的な性質がある。*4 この数式は、複素平面上のある円の内側では値を計算できる。しかし円周上では、値が定まる点と定まらない点が、どれほど小さな区間にもともに現れるほど隙間なく分布している。そのため、内側で定まった関係をそのまま外側へ延ばすことはできない。境界に近づくほど、計算結果の変化は際限なく細かくなる。*5 一方、針が刻める線の間隔には最小値がある。一枚の金属円盤に刻まれる線は、その際限のない変化を、機械が刻める有限の間隔で記録したものである。  

もととなる数式がわかれば、任意の一点の値を原理上計算できる。変換の規則も機械の運動も隠されていない。​​だが、刻まれた線をいくら目で追っても、もとの数式や数値の分布を読み戻すことはできない。本作では、数式の規則を知ること、計算結果を見ること、それが一本の線へ変換される過程を追うこと、完成した円盤を見ることは、​​それぞれ異なる経験である。 

数学的な発見が、その意味の理解に先立つことがある。ラマヌジャンが1920年に記したモックテータ関数に、現代的な理論的位置づけが与えられたのは、​​82年後の2002年だった。*6 さらに、今日のAIシステムは、人間が一つずつ検討できない速度で多くの可能性を探索し、得られた結果を次の計算や検討に用いる。*7 ​​本作が扱うのは、新たな数式の発見ではない。数式から得られた結果が、人の理解に先立って現れるという時間差である。その関係は機械の運動を経て金属に刻まれ、​​鑑賞者は意味を理解するより先に、一本の線が生まれる過程を見る。 

1960年代末、批評家ジャック・バーナムは、作品を完成された物体ではなく、時間と空間のなかで作動するシステムとして捉える「システム美学」を論じた。*8 完成した円盤だけでなく、数式が機械の運動を経て線へ変換される過程を作品として提示する本作もまた、この系譜に連なるという見方ができるだろう。

ライゾマティクスはこれまで、画像だけでなく、それを生み出すデータ、モデル、装置、環境までを作品に含め、生成の条件を観客の前に開いてきた。*9 ​  ​本作はその実践を引き継ぎながら、過程を開示することが、必ずしもその理解をもたらすわけではないという地点へ踏み込む。 

​     ​線はすでに刻まれ、順序は決まり、削られた金属は戻らない。鑑賞者が目にするのは、​​円盤を縦横無尽に走る線の痕跡のみである。「After Understanding」は、理解に先立って結果が現れるとき、私たちはそれをどのように意味づけ、引き受けるのかを問いかける。 

 

 

1 極座標とは、位置をx座標とy座標の組み合わせではなく、中心からの距離と角度によって表す方法である。本作では、円盤の回転が角度に、針の半径方向の移動が中心からの距離に対応している。 

2 複素平面とは、数を平面上の点として表す方法である。横軸に実数、縦軸に実部・虚数をとることで、数式が生む関係を平面上の広がりとして捉えることができる。 

3 極座標プランナーは、あらかじめ定められた線の軌跡に対し、速度・加速度の条件に基づいて機械の動きと所要時間を計算する。 

4 ライゾマティクスの制作資料では、ロジャース=ラマヌジャン連分数、モックテータ関数、ラマヌジャンのタウ関数、デデキントのイータ関数、分割数の母関数、および本作のために構成された実験的な関数が挙げられている。 

5 ロジャース=ラマヌジャン連分数は単位円板の内側で有理型であり、単位円は自然境界となる。円周上には、連分数が収束する点と発散する点がいずれも稠密に分布する。J. McLaughlin and D. Bowman, “On the Divergence of the Rogers-Ramanujan Continued Fraction on the Unit Circle,” arXiv:math/0107043, https://arxiv.org/abs/math/0107043v2(2026年8月30日閲覧). 

6 2002年、Sander Zwegersの博士論文によって、モックテータ関数が重さ1/2の調和弱マース形式の正則部分として理解できることが示された。W. Duke, “Almost a Century of Answering the Question: What is a Mock Theta Function?,” https://www.math.ucla.edu/~wdduke/preprints/mocktheta.pdf / M. Griffin, K. Ono, and L. Rolen, “Ramanujan’s mock theta functions,” PNAS, https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1300345110(いずれも2026年8月30日閲覧). 

7 2026年7月、Levent Alpögeは、Akhil Mathewの問いかけを受け、AIシステムClaude Fableとの作業から得られた、ヤコビアン予想に対する3次元の明示的な反例を発表した。同日、定理証明支援系Leanによる形式証明と、Isabelle/HOLによる独立した形式検証が公開された。同年8月、OpenAIは、次期モデルAstraの内部版が、数学および理論計算機科学における10件の長年の未解決問題を解決、または大きく前進させたと発表した。https://isa-afp.org/entries/Jacobian_Counterexample.htmlhttps://openai.com/index/ten-advances-in-mathematics(いずれも2026年8月30日閲覧) 

8 Jack Burnham, “Systems Esthetics,” Artforum, vol. 7, no. 1, September 1968, pp. 30–35, https://www.artforum.com/features/systems-esthetics-201372/(2026年8月30日閲覧). 

9 2024年の「Rhizomatiks Beyond Perception」では、ライゾマティクス自身が著作権を持つ映像から抽出した約17万枚の画像を用い、既存の基盤モデルに依存しない画像生成AIモデル《Beyond Perception Model》を開発した。同年の《recursive》では、AIの出力を再び学習過程へ戻すとともに、カメラに映る来場者や周囲の環境もその循環へ取り込んだ。長谷川祐子は《recursive》について、「生成画像というゴールだけではなく、その過程をどのように見せるのか」を展示する点に着目し、その背景に「ライゾマの情報処理の感度と美学」を指摘している。「Rhizomatiks Beyond Perception」、KOTARO NUKAGA、2024年6月29日 – 10月14日。https://kotaronukaga.com/exhibition/rhizomatiks-beyond-perception/ / ライゾマティクス《recursive》、2024年。https://rhizomatiks.com/work/recursive/ 

開催概要
After Understanding

アーティスト

会期

会期: 2026年9月12日(土)– 10月17日(土) 開廊時間: 11:30 – 18:00(火 – 土) ※日月祝休廊 ※9月13日(日)、10月11日(日)、10月12日(月・祝)開廊 オープニングレセプション: 2026年9月12日(土)16:00 - 18:00

会場