Economy and Love
ステファン・ブルッゲマン / オリオール・ヴィラノヴァ
2023年5月20(土)-2023年7月8日(土)
KOTARO NUKAGA (六本木)
KOTARO NUKAGA(六本木)では、5月20日(土)より、7月8日(土)まで、メキシコ生まれで、メキシコシティ、ロンドンを中心に活動をする、ステファン・ブルッゲマンとスペイン生まれでブリュッセルを拠点に活動するオリオール・ヴィラノヴァによる展覧会「Economy and Love」を開催いたします。このふたりのアーティストは2020年、コロナ禍の中、KOTARONUKAGA(天王洲)にて開催された展覧会「UNLEASHED SPEED UNLEASHED SPEECH(MISFITS)」でも共に展示をしており、今回ふたたび、それぞれの新作を元に検討されたテーマによって編まれた展覧会を開催いたします。
「Economy and Loveというのは、経済と愛のことです。経済とは、国や地域の財産やサービスの生産や分配の仕組みのことです。愛とは、人や物に対する強い感情や関心のことです。経済と愛は一見すると関係のないように見えます。
しかし、”Economy”と”Love”という二つの概念の関連性は、様々な角度から捉えることができます。経済的な安定は、愛情関係に影響を与えることがあります。お金の問題がある場合、ストレスや不安が引き起こされ、愛情関係に負の影響を与える可能性があります。一方、経済的な安定がある場合、ストレスを軽減することができ、愛情関係をより健全に保つことができる可能性があります。
また、経済的な要因は、愛情関係の選択にも影響を与えることがあります。例えば、経済的に豊かなパートナーを選ぶことができる場合、安定した生活を送ることができる可能性が高くなり、愛情関係にもプラスの影響を与えることができます。
さらに、経済と愛情は、社会的な状況や文化によっても影響を受けます。例えば、経済発展が進んでいる社会では、恋愛や結婚に対する考え方や期待が変化することがあります。一方、経済的に貧しい社会では、愛情や家族関係がより重要視されることがあるとされています。
総じて、経済と愛情は、直接的な関係があるわけではありませんが、経済的な要因が愛情関係に影響を与えることがあり、また、社会的な状況や文化が経済と愛情に影響を与えることがあるということが言えます[i]。」
[i] ChatGPT(2023年4月20日利用)


このテキストは本展のタイトル「Economy and Love」について、現在世界中の注目を浴びるOpenAIのChatGPTに質問したことに対する回答になります。ChatGPTはオンライン上にある、検索可能な情報を元に、AIが質問を分析し回答をしており、インターネット史以降の膨大な人類の知、つまり現代社会に溢れる情報を紡いだ現代社会の「集合知」をひとつの代表的な答えとしてわたしたちに見せてくれるといえます。そのAIが導き出した「Economy and Love」に関する内容が冒頭のテキストとなります。このテキストが示すように、現代社会の構造は「economy(経済)」が、「Love(愛)」に対して先行し、影響を与える関係になっていることが伺えます。
「economy(経済)」とは、人間の共同生活の基礎をなす財・サービスの生産・分配・消費の行為・過程、ならびにそれを通じて形成される人と人との社会関係の総体であり、それらが転じて、金銭のやりくりのことを示します。現在、わたしたちを取り巻く世界では、資本を基に、利潤を追求し、モノの価格が市場における需要と供給によって決まる資本経済というものが支配的なシステムとなっています。年々急速に変化をするため、正確な数字ではないにせよ、2021年には世界の資産の60%以上がデジタル化され、オンライン上に存在すると推測されています。たしかに、巨大になった「(資本)経済」というものはまるで現実の実体から離れ、数字と情報の行き来だけになり、その結果導き出されるわたしたちの生活や未来すらも、計算の上に成り立つ客観的なものにさえ思えてきます。その結果、ChatGPTは、”Economy”と”Love”という二つの概念の関連性として、”Love”という極めて主観的な概念は”Economy”という客観的な概念に従属させられたかのような捉えられ方をして回答を示したのでしょう。言い換えれば、”Economy”と”Love”の関連性について、現代では概ねこのような関係として捉えられているということでもあります。
ブルッゲマンは自身がHyper Poemと名付けたテクストを用い、アプロプリエーション(流用)などの手法と組み合わせながら、現代社会におけるさまざまな事象の矛盾へと切り込むアーティストです。ブルッゲマンは2021年9月にKOTARO NUAGA(六本木)にて「ALLOW ACTION (GOLD PAINTINGS)」を開催しました。支持体の上にカッティングシートで配置された独自のテキストHyper Poemをメディウムとして使用した「金箔」で覆い、その薄さと輝きという箔の特性によって背景構造となっていた文字列を浮かび上がらせ、インターネット上の繋がりによってコントロールされた現代の社会構造を明らかにする作品を提示しました。本展「Economy and Love」では、再び「金箔」を用いた新作シリーズ《untitle view》にて、不確かな現代におけるモノの価値をわたしたちに問いかけてきます。
紀元前から高貴な人々だけが装飾品として身にまとい、儀式や葬いで象徴的に用いられるなどスピリチュアルな存在であり続ける「金」。1816年には英国で貨幣の価値基準として金を用いる「金本位制」が始まるなど、価値の高いものの象徴として経済的な面でも珍重されてきました。ブルッゲマンは、このスピリチュアルと経済という、相反するコンテクストをもつメディウムである金箔を支持体にラフに貼り付け、作品の表面を作ります。どの作品もその表面の一部がのぞき窓のように切り取られています。ウェブブラウザの検索窓のようにも見える、その煌めき、反射をする金箔の中の空虚ともとれる窓、これは英語において「わたし」を示す「I」を寝かせたものです。経済活動も含めたあらゆるものがデータ化され、インターネット上にある現代において、作品の窓から向こうを覗こうとすることは、「わたし」自身を構成する情報やモノとつながっていく現代社会の構造を仄めかし、わたしたちに熟考を促します。
ヴィラノヴァは本展「Economy and Love」にて《economical poem》というペインティングのシリーズを提示します。本作はニュートラルなグレーを背景とし、白く描かれた数字によって構成されたものとなります。本作は2020年の展覧会「UNLEASHED SPEED UNLEASHED SPEECH(MISFITS)」にて提示されたポストカードの作品《Mute》とも関連する作品となっています。この作品はギャラリーの壁一面に敷き詰められたポストカードを提示するコンセプチュアルな作品でした。シンボリックでモニュメンタルなイメージと極めてパーソナルなテキストを送り合うポストカードというメディアの特性に注目したヴィラノヴァの作品の重要な点は、蚤の市(マーケット)のリサーチとそこでのポストカードの蒐集です。ヴィラノヴァはほぼ毎週何度も蚤の市へ足を運び、そこで売られているポストカードを購入することからスタートしたのです。
今回展示される《economical poem》に描かれた数字は、この蚤の市(マーケット)において、ヴィラノヴァがポストカードを蒐集するために、売主と交わしたコミュニケーションを表したもの、つまり、実際に交わされた値引き交渉のやり取りにおいて現れた価格とその推移になります。本作に限らず「数字」そのものは単なる「符号」であり、それ自体は「数字」以上の意味を示すものでは基本はありません。しかし、本作において描かれた数字がヴィラノヴァのアーティスト活動を支える、マーケットにおけるコミュニケーションであるということが示されると、背景のニュートラルなグレーに浮かびあがった白い「数字」はまるで詩のようにその行間に物語のある意味を持つコードとなります。その場にいたふたりのやり取りの声が聞こえてくるようです。
本展「Economy and Love」において、ブルッゲマンとヴィラノヴァのふたりは、わたしたちの生活基盤であり、もっとも身近なシステムでもある「economy(経済)」というものをいかに「エモーショナルなもの」として捉えることが可能なのかということをわたしたちに問いかけてきます。つまり、彼らは”Economy”と”Love”という二つの概念を彼らがもつ芸術的文法(詩、絵画、メディウム)によって読み直し、冒頭で示したChatGPTとは違ったかたちで橋をかけ、わたしたちにそれを可能性として提示することを試みているといえます。わたしたちが「economy(経済)」を「エモーショナルなもの」であると捉えることができるのならば、”Love”は ”Economy”に従属させられたものではなく、ふたつを並置することが可能となります。それは巨大な「資本主義経済」システムに向き合う方法とも言え、資本主義の限界が指摘され、「ポスト・資本主義」のあり方を探る必要性が叫ばれる現在において、ひとつの視点をもつこと可能にするのではないでしょうか。ぜひ、ご高覧ください。
アーティスト
会期
■開催概要 「Economy and Love」 会期: 2023年5月20日(土) - 7月8日(土) 開廊時間: 11:00 - 18:00 (火-土) ※日月祝休廊 会場: KOTARO NUKAGA(六本木) 住所: 〒106-0032 東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル2F
会場