KOTARO NUKAGA 「Art Basel in Basel 2026」参加のお知らせ
KOTARO NUKAGAは2026年6月18日(木)から 21日(日) にバーゼル(スイス)で開催されるArt Basel in Basel 2026に出展します。
KOTARO NUKAGAの初出展となる今回は、芥川紗織(1924-1966)の初期の貴重な油彩から、代表的な染色画、下絵や素描、そして渡米後1960年代の抽象表現による油彩まで包括的に展示し、約15年という短い画業の中で、独自の表現を追い求めた作家のエネルギーの変遷を辿ります。
“技法より技法をつきやぶってあふれるものが大切。なにしろ個性を画面にのたうちまわらせる様にしようと思う。完成されたものを求める必要は少しもありはしない。烈しいもの。燃えるもの。強烈なもの。”
(芥川紗織日記 1954年4月)
芥川紗織は、戦後日本における数少ない女性前衛画家の一人であり、染色という伝統的媒体を絵画表現へと昇華させ新たな分野を開拓しました。東京音楽学校(現東京藝術大学)声楽科を卒業後、夫・芥川也寸志(作曲家)の「一家に二人の音楽家は不要」という言葉を受け音楽の道を退きます。そうした中、自分を語る手段として、高等女学校時代に親しんだ絵画へと立ち返り、再出発を遂げることとなりました。1950年代初頭から猪熊弦一郎の美術研究所で絵画を学ぶと同時に、野口道方のもとでロウケツ染を習得。当時、工芸の領域に留まっていた染色技法を本格的な絵画表現へと取り入れ、「自己を語るための新たな言語」として再構築したのです。当初は「女」をテーマに据えていましたが、やがて「民話」や「神話」に題材を広げ、原初的なイメージに溢れる力強い染色作品を発表するようになりました。
「女」シリーズでは、驚くほど多様な女性像が共存しています。一方では、髪を逆立て、叫び、高笑いするような、剥き出しの感情を放つ躍動的な女性たちが描かれ、その奔放なエネルギーが観る者を圧倒します。その一方で、本展でご紹介する《女XII》や《人(C)》は、人物を線と面による組合せで色鮮やかにリズミカルな構成で描き、植物のような有機的なフォルムは、個としての感情を超越した生命の根源的な躍動感を湛えており、より普遍的な造形へと昇華されています。
「民話」「神話」シリーズが生まれた背景には、ヨーロッパ、ソ連、中国への旅行を通じて自らのアイデンティティを見つめ直した経験があります。外の世界に触れたことで、日本人の生活や社会に深く根差した表現を追求したいという切実な想いが芽生えたのです。
また、1955年に東京国立近代美術館で開催された「メキシコ美術展」でメキシコの壁画運動の巨匠たち(ルフィーノ・タマヨ、オロスコ、リベラ、シケイロスなど)の作品に触れたことも大きな転換点となりました。美術がいかにして国民的なアイデンティティと結びつくのか。この問いへの取り組みは、戦後の混迷の中で「日本人として、一人の人間として、社会の中でどう立ち上がるべきか」という自身のアイデンティティの模索と地続きであったのかも知れません。《古事記より》(176.0 x 1346.0 cm、世田谷美術館蔵 / 172.0 x 660.0 cm、名古屋市美術館蔵、ともに1957年作)に代表される作品群は、力強い構図と鮮やかな色彩で神々の誕生や男女の神々の対立を描いています。そこには創世神話を普遍的な人間の葛藤の物語として、圧倒的な熱量で描き出す彼女の独創的な視点が息づいています。
1955年には、岡本太郎に選出されて二科会の「九室会」に染色作品を出品し特待賞を受賞、一躍、新進気鋭の作家の一人として注目を浴びました。
池田龍雄や河原温といった同時代の芸術家たちが所属する「制作者懇談会」へも参加。そこで意気投合した彼らに吉仲太造を加えた四人で計二回の四人展を開催しています。時代の先端を行く彼女の自由奔放な作風は、当時の流行に追随するものではなく、確固たる個の探求から生まれたものでした。また、油絵が主流の時代に、工芸的とみなされていた染色を絵画表現の核へと据えたことは、同時代の芸術家の中でも類を見ない革新であり、絵画の可能性を大きく切り拓きました。
1959年に渡米、ロサンゼルスでデザインを学んだ後、ニューヨークへ。人種や階級、ジェンダーを問わず門戸を開いていた美術学校「アート・スチューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨーク」に飛び込み、デッサンや油彩を学びます。そこは伝統的な技術を学べる場所でありながら、ポップアートやミニマリズムといった新たな潮流を生み出すための実験室のような役割を果たしていました。既存のアカデミーの枠に収まりきらない若い才能たちが集い、互いに刺激し合うその熱狂的な環境こそが、彼女の表現をさらなる未知の領域へと押し進めていったのです。彼女の作品は抑制された色彩と有機的なフォルムの組合せによる油彩の抽象画へと変化し、それは当時アメリカのアートシーンに台頭しつつあったミニマリズムとの共鳴を感じさせますが、徹底してこだわった独自のマチエールと、呼吸するように引かれた有機的な線は時代の流行への迎合を拒む、強靭な作家精神が宿っています。そこには、合理的で無機質な美学とは一線を画す、彼女ならではの深い精神性と独自の造形美が息づいており、この染色からの変遷は国内外のキュレーターをはじめとする専門家から彼女の画業の重要な転換点として高く評価されています。本ブースでもこの時期の代表的な作品群をご紹介します。
1962年に帰国。帰国後も精力的に作品の発表を続け、その制作意欲は途切れることがありませんでしたが、1966年、妊娠中毒症のため急逝。41歳という若さで夭折したにもかかわらず、芥川は剥き出しの自己の生命感から、神話に託した人類の根源的な葛藤に至るまで、幅広いテーマを大胆に探求し、戦後美術において独自の地位を確立しました。2009年の横須賀美術館での回顧展以降、彼女の作品は着実に再評価され、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の「東京 1955-1970」展やM+(香港)による収蔵などを通じ、国際的な認知度を高めています。生誕100年を迎えた2024年には、作品を収蔵する日本の美術館10館(川崎市岡本太郎美術館、栃木県立美術館、国立国際美術館、豊橋市美術博物館、刈谷市美術館、名古屋市美術館、高松市美術館、横須賀美術館、東京都現代美術館、東京国立近代美術館)が芥川の作品をリレー式に展示しました。その後も「ハニワと土偶の近代」展(東京国立近代美術館/2024年)、「メキシコへのまなざし」展(埼玉県立近代美術館/2025年)、「The Hong Kong Jockey Club Series: Picasso for Asia—A Conversation」(M+/香港/2025年)、「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」展(豊田市美術館、東京国立近代美術館、兵庫県立美術館/2026年)で展示され、多角的な視点から成るこれらの展覧会は、彼女の遺した造形世界がいかに先駆的であったかを証明しています。
時代背景や「女」というテーマから、彼女の画業はこれまでフェミニズムの文脈や、社会的な制約との対峙として考察されてきました。そうした視点は彼女を理解する重要な鍵ですが、一方で、彼女が真に見つめていたのは、そうした枠組みさえも軽やかに超えていくような、人間としての根源的な表現です。日記に綴られた『自分の生涯の仕事をつかんだ』『表現して人々に語りかけることができる幸福』という言葉。それは、彼女の創作の源泉が環境への反発などではなく、表現することそのものの歓喜にあったことを示しています。彼女は、自らの手で掴み取った”表現”という光の中で、誰よりも幸福に、誰よりも自由に、生を謳歌した表現者なのです。特定の属性や期待をさらりと受け流し、一人の表現者として無邪気に、そして奔放に芸術と向き合い続けた。そこから生み出された圧倒的なエネルギーにぜひ触れていただければ幸いです。
【開催概要】
イベント名:Art Basel in Basel 2026
会場: Messe Basel (Messeplatz 10, 4058 Basel, Switzerland)
会期:
VIP Days(招待制)
■First Choice
6月16日(火)11:00 – 16:00
■First Choice and Preview
6月16日(火)16:00 – 20:00
■ First Choice and Preview, One Day VIP & Two Day VIP Card holders
6月17日(水)11:00 – 20:00
Vernissage
6月17日(水)16:00 – 20:00
Public Days
6月18日(木) – 6月21日(日)11:00 – 19:00
参加アーティスト: 芥川紗織
ブース No: D1(Hall 2.0 / Feature Sector)
公式HP: https://www.artbasel.com/basel