デコレータークラブ: 重いバッグの中身
2026年4月4日(土)– 5月23日(土)
KOTARO NUKAGA(天王洲、Three)
KOTARO NUKAGA(天王洲)では、2026年4月4日(土)から5月23日(土)まで、飯川雄大による個展「デコレータークラブ: 重いバッグの中身」を開催します。
飯川雄大は、その場で偶発的に変化し、観客の思考を誘発しながら展開していく作品を手がけるアーティストです。観客それぞれに「何かに気づく瞬間」をもたらす作風は高く評価され、数々の美術館やアートプロジェクトで作品を発表してきました。
KOTARO NUKAGAでは初めての個展となる本展でも、観客の関わりによって思いがけない「風景」を生み出す大規模なインスタレーション作品を展示。会期初日の4月4日(土)17:00からは、飯川雄大と出原均(アーツ前橋館長)のトークイベントを開催します。
また、本展と同時に飯川の個展を開催する水戸芸術館、Art Center NEW、gallery αMと連携した試みも実施されます。
以下は、2024年に飯川と二人展を開催した美術家の大岩雄典が本展に寄せたテキストです。
飯川雄大の作品は注力を求める。協力でも助力でもない。立ちふさがる壁を押すこと、硬いハンドルを回すこと、見た目に反して重すぎる鞄を持ち上げること。さらには、その鞄を遠い場所まで運搬すること。鑑賞する者は力を注ぐ。単に——坂道を登るように——筋力を要するだけではない。目の前で重いものを持ち上げようとする人へ手を貸すように、飯川作品への注力は、コミットメントである。
重いものを持ち上げようとする人は、目に見えて大変そうである。助ける甲斐を、その躊躇する姿や困った表情に感じる。だが飯川の注力の対象は、正体を隠している。ハンドルの奥は見えない。ロープを目で追えば壁の隙間に消えていく。ずっしりと重い鞄の中身はわからない。重くて中身のわからない鞄の運搬は堪らなく不穏である。これによく似た違法なアルバイトが世の中にはある。
隠れた中身。カルロス・ゴーン。スペイン在住の芸術家サンティアゴ・シエラの作品に、不法滞在者を大きな段ボール箱に潜ませたインスタレーションがある。人体が収まるくらいの箱を並べる手法はミニマル・アート由来である。飯川の立ちふさがる壁を押すと、巨大な直方体だとわかる。それは人の身体よりはるかに大きいが、船に載せるコンテナによく似ている。
鞄は手軽そうに見えて重い。そびえ立つ壁は一人で押せるほど軽い。擬態である。擬態を見る——「デコレーター・クラブ」を冠した飯川のこのテーマは、倒錯している。擬態は擬態なのだから、見つからないためのものだ。だから飯川がウェイトを置くのは、蓑をまとった塊が蟹であると露見する瞬間である。
赤は目に飛び込む。カラヴァッジョはその典型である。どの色にも増して、目を打ち付ける強度を赤色は持っている。猫の小林さんのオペラレッドは、家屋の陰に隠れていても、森の木々に隠れていても、展示室の奥に隠れていても、ある瞬間に強烈に目に飛び込む。林家パー子。オペラレッドで満たされた小林さんの明瞭なフォルム——体は横向きのシルエットだが、顔は正面を向いている——は、紛うことなきゲシュタルトである。
「ちいかわ」の鏡像が「でかつよ」であるように、かわいさは無力さである。いや訂正する。かわいさは無力さの表現である。演技であろうと本当であろうと、よちよちと重いものを運ぶ姿が人に手を貸させる。最近不況である。あらゆる価値のデフレーションとインフレーションは加速している。信頼もそうだし、かわいさもそうだ。かわいいだけじゃだめですか、と、猫の小林さんの何食わぬ顔が告げている。眼状紋のような両目が人の注目を捕まえるが、どこを見返しているかわからない。
飯川のドローイングシリーズ《Referee Stop》は、題の通り、ボクシングの選手をレフェリーが止める光景を描いている。決着がついても興奮冷めやらぬ選手が、余計に攻撃に向かわないよう、また自身を傷つけないよう、レフェリーが羽交い締めにする。文字通りの注力であり、また抱擁のようでもある。
《Referee Stop》の構図は、二人で取っ組み合う中でまるで一体に融合しているかのようなレスラーを描いたギュスターヴ・クールベの《レスラー》によく似ている。だがこのドローイングを初めて見たとき連想したのは——飯川のこの作品の初出は、2024年の筆者との二人展である——カラヴァッジョの《キリストの捕縛》だった。ユダは、連れてきた兵士たちに向けてキリストを摘発するために、キリストに抱きついて接吻する。その抱擁もまた、愛の抱擁に見えて、必ずしもそうではない力の行使である。またキリストも、復活を見据えて、無力を行使している。
正体不明とその露見。飯川の作品が観賞者に求める注力——コミットメントは、表現の正体をめぐる拮抗に巻き込まれる。巨大な壁を押しているとき、印象的な瞬間がある。それまで箱の裏に隠れていた天井の照明が、ある線を越えて露わになるとき、光が差して、押している自分を照らすのだ。そこでもう一枚カラヴァッジョを思い出した——《マタイの召命》である。室内にキリストが突然現れ、一介の労働者だったマタイに呼びかけ弟子にする。一体何のことかもわからないまま、マタイはいつのまにか自分を指さす——自分の正体がわかり始めたかのように。マタイに降り注ぐ光は右方から差している。その部屋は収税場であった。
大岩雄典(美術家)
【同時期に開催される飯川雄大個展】
*本展出品作品《デコレータークラブ―新しい観客》の連携企画を実施します。
「飯川雄大 大事なことは何かを見つけたとき」水戸芸術館(茨城)
2026年2月28日(土)– 5月6日(水・振)
「横浜、猫、卓球台」Art Center NEW(横浜)
2026年2月28日(土)– 5月23日(土)
「飯川雄大 | デコレータークラブ:すべて違う姿」gallery αM(東京)
2026年4月11日(土)~ 6月13日(土)
Image:
Takehiro Iikawa
Documentation of Decorator Crab: Make Space, Use Space (in transit), 2025
From Artemin Gallery, Taipei to Neiwei Arts Center, Kaohsiung
Courtesy of the artist
アーティスト
会期
会期: 2026年4月4日(土)– 5月23日(土) 開廊時間: 11:30 – 18:00(火 – 土) ※日月祝休廊 ※GW休廊 4月26日(日)– 5月6日(水) 【オープニング・トーク】 「壁のてまえで」 日時: 2026年4月4日(土)17:00 – 18:00(開場 16:30) 出演: 飯川雄大(出品作家)、出原均(アーツ前橋 館長) 会場: KOTARO NUKAGA(天王洲) ※お席は先着順、満席となり次第、立ち見でのご案内とさせていただきます。
会場