Myth In Motion

2024年9月21日(土)– 11月10日(日)

KOTARO NUKAGA (六本木)

KOTARO NUKAGA(六本木)では、ロサンゼルスを拠点に活動し、若くして世界から注目されてきたコア・ポア(Kour Pour, 1987-)と、南米のアマゾンのウイトト族にルーツを持ち、第60回ヴェネツィア・ビエンナーレにも参加中のレンベル・ヤワルカーニ(Rember Yahuarcani, 1985-)による二人展「Myth In Motion」を、2024年9月21日(土)から11月10日(日)まで開催します。

絨毯店を経営するイラン人の父とイギリス人の母の元、イギリス・エクセターに生まれたポアは、イギリス、イラン、アメリカをバックグラウンドに持ちます。複数のアイデンティティに対し身体的な理解を持つポアは、これまで代表的なシリーズである「カーペット」を中心に、ペルシャ絨毯、中世イスラムの写本、中国絵画、浮世絵など幅広い視覚的伝統からインスパイアされた作品を発表してきました。本展では「タイガーシリーズ」のペインティングを展示します。

複雑な文化的背景を持つ韓国からの移民の親友の体に彫られた虎のタトゥーを参照の起点とするこのシリーズは、中国、日本、韓国の民間伝承における視覚文化の伝達と交流を題材にしています。身をよじり、時に堂々とキャンバスの上で振る舞い、多様な表情を湛えるポアの描く虎は、工業用の素材を仕事で扱う叔父から勧められた分厚いビニールのフローリングを版木として使用することで、木版画でありながらも、より大きな画面へプリントを実現しています。平面的で豊かな原色による色面は、虎とその周りをたなびく祝祭時の旗のようなストライプに力強さと躍動感を与え、ポアの作品を西洋的な視覚言語から逃避させていきます。ポアは、朝鮮半島の社会政治風刺、哲学的寓意、神話上の守護者など、東アジアにおける虎の多様な象徴性を参照とし、これらの国々の芸術家が虎のイメージをどのように共有し、それぞれの文化の中で独自の意味を与えてきたのかを探求します。 彼の作品は、文化的な境界を超えてイメージがどのように伝播し、変容していくのかを、力強く示しています。2015年と2017年にはForbes誌の「30 Under 30」リストに選出されるなど、若くから世界的に注目を集めてきたアーティストです。

一方、ヤワルカーニは、自身のルーツでもあるコロンビア南東部からペルー北部の先住民であるウイトト族の伝統と神話をバックグラウンドとした大規模なペインティングを制作します。祖父母の代から、織ること、彫ること、描くこと、装飾品をつくることなどの手芸によって生計を立てる家族に生まれたヤワルカーニは、ペルーの首都リマと、ボートでしか行くことのできない人口2万人足らずの町、ペバスを行き来し活動しています。コミュニティの中で伝達され、特に祖母によって母国語で語られた神話や先祖の逸話などを日常の中で聞き、画家である父親によって視覚化された物語に強く影響を受けてきました。

彼のペインティングに登場する色鮮やかな動物、植物、精霊、人間、そしてアマゾンの熱帯雨林に生息する他の生物は、互いに目に見えないレベルでつながっているかのように描かれており、それらを英知の源として再認識しています。繊細な線で描かれ透明感をもった生物や精霊は、鬱蒼としたアマゾンの奥に広がる静謐な世界を捉えた背景描写の中で有機的に浮かび上がり、彼の絵画に対峙した者を見たことのない世界へと没入させます。ヤワルカーニの作品では、神話とは硬直した過去を語る物語ではなく常に彼らと共にあり、国家や西洋中心的な世界の規範によって押し付けられてきたアイデンティティとは異なる体系を持った生き生きとした日常なのです。同時に彼は自身の作品が「先住民のアート」としてレッテルを貼られることを拒否し、現代アートの文脈のなかで堂々と彼らの先祖から奪われた尊厳を取り戻します。ヤワルカーニは第60回ヴェネツィア・ビエンナーレにも選出されており、国際的な芸術の文脈において、ますます注目を集めています。

異なる文化的背景を持つ二人の素晴らしいアーティストであるポアとヤワルカーニの展覧会を開催する機会を得てKOTARO NUKAGAでは、現代というグローバル時代における文化的アイデンティティの複雑さと豊かさを探求、固定的な理解を超え、常に変化し続ける文化の本質を表現することを目指した展覧会として「Myth In Motion」を企画しました。

「Myth In Motion」はポアのペインティングに描かれた、今にも動きそうな虎やたなびくストライプ、そして朝鮮や中国、日本の虎が描かれた四つの絵画の呼応によって生まれる新しい物語。ヤワルカーニが口にする「神話は動きの中にあるのです」という言葉から生まれたタイトルとなります。

 

西洋的な価値観における「神話」はかつての偉大な物語として普遍化され、啓蒙的に語られてきました。しかし、彼らのアーティストとしての身振りが示す「神話」は普遍化され、固定化されたものではなく、現在も進行する現代社会の様相を反映したリアリティなのだと言えます。現代社会はグローバル化され、あらゆるものが移動し、さまざまな関係の混ざり合いによってクレオール化された動的なものなのです。

カリブ海地域の文化的アイデンティティと歴史についての深い洞察を持ち、現代の多文化社会を理解するための重要な視点を提供するフランス領マルティニーク生まれの詩人、哲学者のエドゥアール・グリッサン(Édouard Glissant, 1928 – 2011)[1]は自身の著書『〈関係〉の詩学』にて文化の混淆性によって生じる「クレオール化」について述べています。

クレオール化とはもつれあいの一つの形式であり-ただ単に言語的結果なのではない-それにはそれ自体の過程以外に模範はなく、ましてやその作動の出発点となるような「内容」は存在しない。(中略)われわれを促すのは、我々のアイデンティティの定義だけではなく、アイデンティティがすべての可能なものとのあいだにもつ関係でもある。この関係の作用が生む、相互的な変容だ。さまざまなクレオール化は人々を〈関係〉にみちびきいれる[2]

「クレオール化」とは、単に異なる文化が混ざり合うことではなく、そこから元となる文化とは異なる新たな領域が作られ、脱領土化が行われることを意味します。混ざり合う前の元のどちらにも属さない新たな創造性によって領域が開かれることこそがクレオール化の最大の特徴で、グリッサンはこの新しく生まれる創造性を「〈関係〉の詩学」と示しました。ギリシア語の「制作=ポイエーシス」を意味する「詩学」は彼にとって、単に詩を意味するわけではなく、世界観や世界の認識を意味したのです。

複雑で豊かなバックグラウンドを持つ、二人のアーティストの作品は、本展覧会を通して、グリッサンの理論を視覚的に体験し、文化的アイデンティティの流動性と創造性について深く考察する機会を提供します。二人のアーティストがそれぞれ示す「神話」は日本という異なる文脈で、鑑賞者の皆様と出会い、〈関係〉し、交渉し合い、そこで生まれる文化的混淆によって予測不可能に創造的な「動的な神話」、つまり「Myth In Motion」として、新たな創造性の領域を切り拓くのです。 本展を日本有数の文化の交差点であるこの六本木にて開催できることを嬉しく思います。ぜひ、この機会にご高覧ください。

VIDEO
開催概要
Myth In Motion

アーティスト

会期

会期: 2024年9月21日(土)– 11月10日(日) 開廊時間: 11:00 – 18:00(火 – 土) ※日月祝休廊 ※11月10日(日)開廊

会場

プレスリリース